12月25日
世の中が少しだけ輝きを増す12月25日。
彼女は一人桑畑に立っていた。
右手に剪定ハサミ、左手にはカマ。
桑畑を眺めるその表情には、恍惚さえ浮かべていた。
『あぁ・・なんと美しい・・美しい桑畑よ・・。』
・ ・ ・
事の顛末はこうである。
12月初旬。
まだまだ鬱蒼と生い茂る桑畑に見送られ、私は旅に出た。
4泊5日。とても幸せな旅だった。
幸せな時間は瞬く間に過ぎてゆき、
幸福感を胸いっぱいに抱え帰路に着いた私を待っていたのは、
凄まじく荒れまくった桑畑だった。
私がいない5日間ですっかり落葉し、その全貌を明らかにした桑畑。
枝は倒れまくり、木は枯草で覆われ、見るに堪えない姿になっていた。
この畑は、今年あまり使わず、手入れもそこそこにしか行えていなかったのだ。
咄嗟にカマとハサミを握りしめた。
桑畑は養蚕をする上で一番大切なもの。
綺麗に整え世話をするのは当たり前のことだけど、
この時の私を突き動かしたのは、紛れもなくご近所さまの目だった。
こんな地獄の三丁目のような桑畑を人様に見られたくない。
動機は不純かもしれないが、体裁を保つ。という動機も時には必要だ。
それからの日々、一心不乱にカマを振りつづけた。
来春使えそうな枝以外はバスバス切った。
でも、やってもやっても進まない。
広すぎる。
これ終わる時来るの?
無我夢中になりたいけれど、無我になるのはむづかしいもので、焦れば焦るほど出てくる山のような言い訳。
桑畑をこんなに荒らしてしまった言い訳を、
作業が追いつかない言い訳を、
まだ手を付けられずにいる色んな仕事への言い訳を、
だって、だって、だって・・・・、
『だって、しょうがないじゃないか』
終いにはえなり君だって出てきた。
言い訳が出尽くしたところで、必死でまた別の言い訳を絞り出そうとしてる自分が少し可笑しくなってきた。
誰に言い訳してるんだろ。
忙しいのは誰だって一緒だ。
焦りも言い訳も体裁という動機も長くは続かなくて2日で飽きた。
それからは、来年の育蚕のために、葉っぱが使いやすいように、
桑畑と来春の育蚕のことだけを考えて丁寧にやった。
そんなこんなな2週間。
私の持ち合わせた時間と体力の全てを桑畑に投じてきた。(←農家だから当たり前なんだけど・・)
そして本日ついに峠を越し、冒頭のくだりとなるのである。
くたくたの体で綺麗になった桑畑をうっとりと眺めるクリスマス。
美しい。
終わったのは右半分だけだけど、ここが一番ひどかった。
綺麗になった畑は見ているだけで幸せだ。
裏山の桑畑も見事に丸坊主。
栗の木だって丸坊主。
畑の作業は、年が明けてもまだまだ続く。
作業が追いつかない以上、私に農閑期というものがないことは分かった。
でも、来年はもう少し時間がとれるよう追いつきたいと思っている。
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